研究紹介

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チベット高原の高山植物の種多様性・遺伝的多様性の評価

◆広大な高山帯を要するチベット高原は隣のヒマラヤ地方と合わせて、他に類を見ないほど多くの高山植物が生育している。そこで生育する標高傾度に応じた植物の種多様性や遺伝的多様性を調査してきた(そこで目にした植物は植物記参照)。

◆チベット高原に広く分布する矮性低木キンロバイ(バラ科キンロバイ属)を対象に、どのような遺伝的変異がどこに分布しているかを解析し、過去の分布変化や生き延びることのできた場所を推定した。
標高の高い地域である高原中央部の集団で遺伝的多様性が高く、祖先型の遺伝変異が見られた一方、北東部の集団の遺伝的多様性は低く、起源の新しい遺伝変異が見られた。中央部地域は高標4000mを超えるが、氷期でも氷に覆われることは無かったと言われており、氷期・間氷期を通じて高山植物が生き延びることのできた場所あり、キンロバイの多様性の源になったと考えている。

今後は日本の高山植物との系統関係を明らかにしたい。


市民団体やマスメディアとの連携

◆極地である高山帯は、将来の温暖化の影響が最も出やすい生態系の1つだとされており、実際に世界各地で種組成の変化あるいは動植物の分布標高の上昇等が報告されるようになった。日本も例外ではなく、そうした傾向を早期に捉えるため、NPO法人山の自然学クラブとの連携で中央アルプスの植生モニタリングを行なっている(詳細はNPO法人のホームページで)。

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◆公益社団法人日本山岳会および山岳雑誌「岳人」との協働で、登山者から過去と現在の山岳写真を募集し、写真を活用した山岳植生の変化解析に取り組んでいる。写真は調査記録に代わる客観的な記録となりえ、過去に撮った写真と最近撮った写真の比較ができれば、植生の変化を検討することが可能となる(詳細は岳人2013年2月号に掲載)。収集した写真についてはデータベースで公開し、登山する人みんながユーザーとして山の記録写真を共有し、写真撮影を通じてみんなで山を観測できたらと考えている。

土壌シードバンク動態

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 植物個体群は、動物とは異なり、目に見える地上個体群の他に地下個体群として、土壌中で生き続ける埋土種子集団(土壌シードバンク)を有している。ときには何十年も発芽せずに生き続ける種子もある。植物個体群において種子は空間的分散とともに時間的分散をするユニークなステージといえる。土壌シードバンクは個体群の維持・拡大に重要な役割を果たしていることが知られているが、その動態を追跡することは困難で実証的データは限られている。
 このシードバンクのフロー(発芽や生残)や空間的な動きを明らかにすべく研究を行なっている。


葉緑体ホームゲノムの解読(森林総合研究所との共同研究)

 筑波大の遺伝子実験センターにある次世代シーケンサーGS Jrを活用し、バイオインフォマティクスの研究者と連携して、植物の葉緑体ホールゲノムの塩基配列解読に取り組んでいる。これまで葉緑体ゲノムの一部の領域は分子系統地理学や種の識別に活用されてきたが、ホールゲノムで解読した場合も同様の結果が得られるのか検証する。その他、葉緑体の再編成あるいは、種の識別により適した領域について検討する。


除草剤抵抗性遺伝子の拡散リスク評価(京都大との共同研究)

 除草剤の普及に伴い、除草剤に対する抵抗性雑草が多数報告されるようになった。これらの除草剤抵抗性個体の存続性および除草剤抵抗性遺伝子の拡散可能性を明らかにするために、抵抗性の発生報告数の多いドクムギ属やヒユ属を対象に、抵抗性遺伝子およびマイクロサテライト領域をマーカーとして、抵抗性遺伝子の拡散可能性を解析している。あわせて遺伝子流動に影響を与える表現型(開花期、種子生産、和合性)の調査を行っている。